先日、大阪市鶴見区にある咲くやこの花館に行ってきました。その時はシダを見に行ったのですが、ちょうどフラワーツァーがあるというので初めて参加してみました。その時、ウツボカズラについても説明していただきました。

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ウツボカズラはよく知られた食虫植物で、葉の先端にこんな水入れのような入れ物(捕虫器)をつくり、その中に消化液を入れ、落ちてきた昆虫を消化してそこから栄養を得るという、つる植物です。この写真の種はNepenthes bicalcarataというボルネオの泥炭地の沼に生える植物です。このウツボカズラの捕虫器の上には写真のように2本の棘のような突起があり、そこから蜜を出して虫を集めているそうです。ちょうどその突起から落ちてくる虫を待つような格好ですね。ツアーでは、実際、小さな虫がいるでしょうという説明がありました。

この植物に関しては最近、いくつかの論文が出ています。それは、Camponotus schmitziという、この植物に特有のアリが生息して、ウツボカズラと共生関係にあるというのです。アリを共生させる植物をアリ植物というのですが、Wikipediaによると、アリがその植物の出す蜜を食べ、植物体の中にすみかを得る代わりに、葉を食べる草食性の昆虫や動物を撃退したり、アリの排出物を植物への栄養分として与えるという共生関係をいうようです。

ところが、このCamponotus schmitziというアリは、一方では蜜を食べ、つるに穴を開けてすみかとしていながら、ウツボカズラの消化液の中を平気で泳いて、中にはまった虫を横取りしているというのです。アリにとっては一方的に調子が良くて、植物にとって損なのですが、なぜかアリを住まわせているウツボカズラは葉も捕虫器も大きくなり、また、捕虫器が長持ちするそうです。

最近の論文の要旨をいくつかざっと読んでみました。

1. V. Bonhomme et al., J. Tropical Ecology 27, 15 (2011).
2. V. Bazile et al., PLOS one 7, e36179 (2012).
3. M. Scharmann et al., PLOS one 8, e63556 (2013).

最初の論文では主に観察の結果を書いています。通常、アリは攻撃的なので、アリがいると他の虫達はあまり近づかないのですが、このウツボカズラではなぜかたくさんの虫がやってきていました。それはアリが捕虫器の中で待ち伏せしていて、姿を隠しているからのようです。それではアリは何を植物に与えているのかというと、この消化液はpH~5程度で酸性度はあまり高くありません。それで消化力も弱いのですが、アリはそこにはまったエサになる昆虫を食べる代わりにそれを細かくして戻してやり、消化しやすくしているというのです。

次も同じグループの論文ですが、植物がアリから栄養を受けているかどうか確かめようというものです。アリが住んでいるウツボカズラとそうでないウツボカズラの生育状態を調べて、その結果から生育に必要な窒素をアリから得ているのだという結論に達しました。見積もると、植物体に必要な窒素の40%あまりをアリから得ているということです。アリは草食性の昆虫を撃退し、捕虫器の入れ物を滑りやすくしてあげ、さらに、アリの排出物から窒素を与えて共生関係を維持しているようです。

最後の論文は要約が日本語でも出ていました。この論文は2番めの論文で窒素をアリが供給しているというのを実際に確かめたという内容です。窒素の中には質量数が14と15という2つの同位体がありますが、その存在比(15N/14N)は自然界でほとんど一定です。調べてみると、このアリの中での存在比はやや高めに出ていました。そこで、アリを共生させているウツボカズラとそうでないものでその存在比を比較してみました。確かに、共生させているものの葉では15Nが多くなっています。さらに、アリに15Nの多いエサを与えて結果を比べてみました。やはり葉の15Nが増えています。これで、アリからウツボカズラに栄養分が渡っていることが明らかになりました。共生関係におけるアリの役割ははっきりしませんが、排出物から栄養分を与えている他、捕虫器の表面を綺麗にし、さらに、捕虫器の内部で生息するボウフラを退治することで栄養が他に逃げるのを防いでいるという内容です。

最後の論文には補足説明用のビデオがついていて、アリが捕虫器の中を泳いて虫を捕獲している様子が分かります(上の論文をクリックし、Supporting Informationのところにビデオファイルが2つありますので、再生してみてください)。

ところで、咲くやこの花館で見た虫は何だったのでしょう。角のような突起の先端を拡大してみます。

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小さなアリのようなものが見えます。もっと拡大してみます。

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確かにアリです。突起の先端に集まって蜜をなめているようです。このアリは体長1mmちょっとで、上に出てきたC. schmitziの働き蟻の4-5mmに比べるとずっと小さいので別の種です。アリは腹と胸の間にある腹柄の節数で大きく分かれます。この種は写真からは腹柄節が1つなので、ヤマアリ亜科などが属するグループに入り、さらに検索表を見ていくと、あまり確かではないのですが、ヒメキアリ属に属するのではないかなという気がします。この仲間にウスヒメキアリという南方系のアリがいるのですが、それと似ているような感じです。ひょっとしてこのアリ、ウツボカズラと共生しているのではないでしょうか。今度行った時に巣を探してみようと思います。